原爆に想う 千島喜久男
さき頃、私は映画“ひろしま”を観た。一瞬にして幾十万の尊い人命を奪い、人類史上初の悲惨きわまりない地獄絵巻を広島の地上に巻き起こした原爆の惨禍を、まざまざと示してくれている。夢遊病者のようにわが子を探し求める親、母を求める幼児の悲惨な叫びを見、その心情を察し涙なしではいられなかった。
しかも、終戦後8年目の今日なお原爆の放射線による白血病に悩む多くの人々のあるのを知って、この非人情的な原爆を投じた行為に憤りを感ずるのは人情である。しかし冷静に考えるとき、これを投じたアメリカだけを憎悪すべきではない。これは私どもを含めた全人類の知性と人間性の本質への深い反省につながる問題である。
個々人は平和を愛し、人間同士が殺戮し合うことが如何に馬鹿々々しいことかをよく知っている。しかし国家という集団の利害が相反するとき、理性は時々失われる。しかし、人間はもっと聡明にならねばならぬ。そして自らの生命と同じように他の生命の尊厳さを認め合わなければならない。
そのためには人類はおたがいに愛し信頼し合って一団となり世界国家を樹立するのが理想であろう。そしてわれわれは自らの職分を通じてお互いに理解し合い、世界の平和と同胞とそして人類の幸福のために奉仕すべきである。
その必要性が今日ほど重要な時はまたとないのである。私がこの一項をものしたのもこのような微意からである。
〇原爆性白血病と赤血球
原爆の放射能による白血病の原因、治療その他については、広島にある原爆病研究機関“ABCC”でアメリカ人が研究しているという。日本その他の国でも血液学者・病理学者等がその研究に専念している人も多いことと思う。しかしこの白血病の原因は他の白血病と同様、骨髄における白血球造成の過多によると考えられているようである。しかもそれは相変らず骨髄造血中心の学説を主流として研究が進められているらしい。しかし斯様な考えでは到底、白血病の起る機構は解明できないだろう。
私は白血球は赤血球を母体として形成されるとの説を、数年来多くの機会に発表し続けてきた。普通の白血病における白血球の増加は、骨髄における“赤血球より白血球へ”の分化がその一因であることは確かであろう。しかしそれはどこまでも一部であって全部ではないと考えられる。
病的状態、栄養不良の状態等では、骨髄のみならず各種内臓、筋肉、骨、軟骨、脂肪その他ほとんどすべての組織が血球への逆分化を示す。この場合、完全に赤血球へ逆分化する前の段階、即ち赤芽球その他白血球の状態のまま流血中に流れ込むであろう。
他方では高熱を伴う疾患、多くの病的状態では、赤血球はその正当な分化能即ち各種組織に運ばれ、それぞれの組織細胞に定着分化し、固定組織化する正常な分化能を失い、その破壊性が高まり、また容易に白血球化する性質が高まるであろう。かくして組織の逆分化によるものと、赤血球自体の白血球化とによって流血中の白血球は著しく増加する。
さらに一方消化管壁における正常な赤血球造血は障害され、比較的少量のしかも不健康なこわれ易い赤血球しか造血されなくなるであろう。赤血球は元来、その日齢を重ねるにしたがって、白血球化の度を高めるものである。かくして赤血球造血が低下するのに反し、白血球増加の諸要因は重なり所謂白血病が起こるものであると私は判断する。
原爆性白血病もこれ等と体質的に異なるものだとの理由は少しも考えられない。
消化管造血をまず促進するために、消化管系を徹底的に研究し、これを正常化する方法を講ずると同時に、全身組織の放射性元素の残存するものあらばそれを除去する方法を、またその後作用を除き血液組成を正常化する方法が講ぜられるべきであると思う。
これは簡単にはいかないかもしれない。しかし不可能ではないだろう。
2025ケモ室は・・

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