カルシウムと分化、不安定の安定 千島喜久男
カルシウムイオンは元来、陽性荷電とされているが、物質の表面によく吸着する性質をもち、粒子間の結合を助けるセメントの役割を演ずることもコロイド化学で知られている。生物体におけるカルシウムの役割は決して過少評価してはならないものの一つである。細胞や組織が相互に結合し、体制化を進める上にもカルシウムの結合作用が役立つものと考えられる。
毛細管壁の細胞はCaと蛋白質との結合物で結ばれ、このCa性結合が次第に細胞間隙を通って拡散する。血液凝固がCaの存在なしには行われないことも周知の事実である。
このような事実からCaが細胞や組織の体制化に重要な働きをもつことは疑いない事実であるが、他方では、生物の老化現象は常に組織中へのCa沈着の増加を伴い、体制化阻害の反面のあることを忘れてはならない。
老化とCa沈着の問題については多数の研究がある。
ここで特に注意を要することは、生物が発生、成長の時期にはCaは体制化を促進する役割を演ずるけれども、成長の頂点を超え老化が始まるにつれてCaの沈着は体制化を妨げることになる。
その理由は、幼若細胞または活発に作用を営む細胞や組織は、物質代謝が速やかに行われ、分子の運動も活発であるが、老化と共にコロイドの老化、即ちゲル化が起こるためCaの吸着が容易となることと、長い時間的経過によってその蓄積が行われる。
正常な細胞表面は陽性荷電であるので、同じく陽性荷電のCaイオンを反発するが、老化と共に陽性の減退するにつれてCaの吸着が増すものと考えられる。
この事実は、生命現象が矛盾、対極を含みつつ常に不安定な安定を保ちつつ波動、螺旋的な運動を続けるものだという一つの証左となろう。


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